3Dスキャンの方法

3Dスキャンとは、実際の製品や部品、金型などの形状を非接触または接触方式で測定し、三次元データとして取得する技術です。対象物の表面にレーザー光やパターン光を照射したり、X線を透過させたりすることで、多数の三次元座標を取得し、「点群データ」として形状をデジタル化します。
取得したデータは、寸法測定、CADデータとの形状比較、品質検査、摩耗解析、リバースエンジニアリング、金型修正、補修部品の再製作など、製造業のさまざまな工程で活用されています。
3Dスキャンの基本的な仕組み
3Dスキャンでは、対象物表面の位置をX・Y・Zの三次元座標として測定します。数万点から数百万点以上の座標を取得することで、複雑な自由曲面や細かな凹凸まで立体的に記録できます。
一般的な流れは次のようになります。
対象物の準備 → 3Dスキャン → 点群データ取得 → ノイズ除去 → 複数スキャンの位置合わせ → メッシュ化 → CAD化・解析
スキャンしただけでは、すぐに設計用CADデータになるわけではありません。用途に応じて点群処理、ポリゴンメッシュ生成、サーフェス作成、ソリッドモデル化などの後処理が必要になります。
3Dスキャンの主な方法
光学式3Dスキャン
光学式3Dスキャンは、対象物に白色光、青色光、LED光、縞模様などのパターン光を投影し、その変形をカメラで撮影して三次元形状を計測する方法です。
構造化光方式では、対象物表面に投影されたパターンが形状によって変形するため、その変化を複数のカメラで解析して奥行きを算出します。
広い範囲を短時間で測定しやすく、金型、樹脂成形品、鋳造部品、自動車部品、試作品などの測定に適しています。
主な特長
- 非接触で測定できる
- 面全体を高速に取得できる
- 自由曲面の測定に適している
- 高密度な点群データを取得できる
- CADとの形状比較に利用しやすい
一方、鏡面、透明、半透明、黒色の対象物では光が正しく反射しないため、測定が不安定になることがあります。
レーザー式3Dスキャン
レーザー式3Dスキャンは、対象物へレーザー光を照射し、その反射位置や角度、往復時間などから距離を測定する方法です。
工業部品向けのハンディ型3Dスキャナーでは、レーザーラインを対象物へ照射し、カメラとの三角測量によって三次元座標を取得する方式が多く利用されています。
作業者がスキャナーを持って対象物の周囲を移動しながら測定できるため、大型部品や設備、金型などにも柔軟に対応できます。
主な特長
- 複雑な形状を測定しやすい
- 大型部品にも対応しやすい
- ハンディ型による現場測定が可能
- 高密度な点群を取得できる
- リバースエンジニアリングとの相性が良い
三角測量方式
三角測量方式は、レーザーや光を対象物へ照射し、光源・対象物・カメラの位置関係から三角形を作り、角度の違いによって距離を求める方法です。
近距離の測定に適しており、高い精度と細かな形状再現性が求められる機械部品や金型などで広く利用されています。
小さな穴、R形状、段差、自由曲面などを高密度に取得できる一方、深い溝や光が届かない部分は死角となるため、対象物の向きを変えながら複数方向から測定します。
ToF方式
ToF(Time of Flight)方式は、レーザー光を対象物へ照射し、光が戻ってくるまでの時間を測定して距離を求める方法です。
光の飛行時間から距離を計測するため、数メートルから数十メートル以上の広い範囲を測定できます。
工場設備、大型機械、建築物、プラント設備など、大規模な対象物の三次元計測に適しています。
近距離の精密部品測定よりも、広範囲の形状把握や設備レイアウトのデジタル化などに向いている方式です。
位相差方式
位相差方式は、一定周期で変調したレーザー光を対象物へ照射し、反射して戻ってきた光との位相のずれから距離を算出します。
ToF方式と同様に広い範囲を測定できますが、高速かつ高密度に点群を取得しやすいことが特徴です。
工場、建物、設備、配管、プラントなどの三次元計測に使用され、設備の現況把握やデジタルツイン用データの取得にも活用されています。
CT式3Dスキャン
CT式3Dスキャンは、X線を使用して対象物の内部と外部を三次元的に測定する方法です。
対象物を回転させながら多方向からX線を照射し、取得した透過画像をコンピュータで再構成することで三次元データを生成します。
光学式やレーザー式では測定できない内部構造を確認できる点が最大の特徴です。
主な用途
- 鋳造品内部の巣や気泡確認
- 樹脂成形品の内部形状測定
- 電子部品内部の検査
- 肉厚測定
- 内部空洞の形状確認
- 組立状態の非破壊検査
ただし、対象物の材質、厚み、サイズによって測定可能範囲が変わります。
3Dスキャンの作業手順
1.測定目的を決める
最初に「何のために3Dスキャンするのか」を明確にします。
例えば、
- 現物からCADデータを作成したい
- CADと製品の形状差を確認したい
- 摩耗量を測定したい
- 金型を復元したい
- 寸法測定を行いたい
- 製品形状を保存したい
など、目的によって必要な精度やスキャン方法、データ処理方法が変わります。
2.対象物を確認する
対象物のサイズ、材質、表面状態、形状を確認します。
特に注意が必要なのが、
鏡面・光沢面・透明・半透明・黒色
などの表面です。
光学式スキャナーでは光の反射を利用するため、このような材質では正確な測定が難しくなることがあります。
必要に応じてマットスプレーを使用し、表面反射を均一化して測定します。
3.スキャナーをキャリブレーションする
高精度な測定を行うためには、測定前に3Dスキャナーのキャリブレーションを行います。
専用のキャリブレーションプレートなどを使用して、カメラ、レーザー、センサーなどの位置関係を補正します。
温度変化や機器の移動によって精度が変化する場合があるため、測定環境に応じた調整が重要です。
4.対象物を3Dスキャンする
対象物へレーザー光やパターン光を照射して三次元形状を取得します。
一方向からの測定だけでは裏側や深い部分が取得できないため、対象物を回転させたり、スキャナーの位置を変更したりしながら複数方向から測定します。
大型部品の場合は、作業者がハンディ型スキャナーを持って対象物の周囲を移動しながら測定する方法もあります。
5.点群データを取得する
3Dスキャナーによって取得される基本データが「点群データ」です。
点群は、
X・Y・Zの三次元座標を持つ多数の点
によって構成されています。
対象物の表面を数十万~数百万以上の点で記録することで、実物形状をデジタル空間上に再現します。
6.複数のスキャンデータを位置合わせする
対象物を複数方向から測定した場合、それぞれの点群は別々の座標で取得されています。
そこで、共通形状やマーカーなどを基準にしてデータを位置合わせし、一つの三次元データへ統合します。
この工程は「アライメント」「位置合わせ」「登録」などと呼ばれます。
位置合わせ精度は、最終的な3Dデータ精度にも大きく影響します。
7.ノイズや不要点を除去する
スキャンデータには、本来の対象物以外の点や測定誤差による外れ点が含まれることがあります。
例えば、
- 作業台
- 治具
- 周囲の設備
- 光の乱反射による点
- 測定誤差による外れ点
などです。
これらを除去して、対象物に必要な点群だけを残します。
8.ポリゴンメッシュを作成する
点群同士を三角形で結び、表面形状を作成したものが「ポリゴンメッシュ」です。
代表的なファイル形式には、
STL・OBJ・PLY
などがあります。
メッシュ化することで、対象物の表面を立体モデルとして表示できるようになります。
必要に応じて穴埋め、平滑化、リメッシュ、法線修正などを行います。
9.CADデータへ変換する
設計変更、加工、金型製作などに使用する場合は、メッシュデータからCADモデルを作成します。
例えば、
- 平面
- 円筒面
- 穴
- 軸
- テーパ
- フィレット
- 自由曲面
- 基準面
などを解析し、設計意図を考慮しながらCAD形状として再構築します。
自由曲面についてはNURBSサーフェスを使用することがあります。
さらに寸法や拘束条件を設定すれば、編集可能なパラメトリックCADモデルとして作成することもできます。
3Dスキャンデータの種類
点群データ
3Dスキャナーから直接取得される、多数の三次元座標の集合です。
現物形状を非常に細かく記録できますが、そのままでは一般的なCAD設計には使用しにくいため、用途に合わせた変換が必要です。
ポリゴンメッシュ
点群を三角形で結んだ表面モデルです。
STLやOBJなどの形式で保存でき、3Dプリント、形状確認、偏差解析などに利用できます。
サーフェスモデル
点群やメッシュをもとに、NURBSなどの滑らかな曲面として再構築したCADデータです。
複雑な自由曲面を持つ製品や金型のCAD化に適しています。
ソリッドモデル
内部まで体積情報を持ったCADモデルです。
寸法変更、穴加工、フィレット変更、設計変更、CAM加工、CAE解析などに利用できます。
3Dスキャン方法の選び方
3Dスキャンでは、すべての対象物に同じ測定方法が適しているわけではありません。
小型・中型の精密工業部品
→ 光学式・レーザー式
複雑な自由曲面や金型
→ 高精度光学式・レーザー式
大型機械・工場設備・プラント
→ ToF式・位相差式
内部構造を確認したい部品
→ 工業用CT
というように、対象物と目的に合わせて方式を選択することが重要です。
3Dスキャンするときの注意点
3Dスキャンの精度は、スキャナー本体の性能だけで決まるものではありません。
測定結果には、
- 対象物の材質
- 光沢や反射
- 透明度
- 対象物のサイズ
- 温度
- 振動
- 周囲の照明
- スキャン距離
- 測定角度
- キャリブレーション
- 点群処理方法
など、さまざまな条件が影響します。
特に精密部品を測定する場合は、「スキャナーのカタログ精度=完成データの精度」と考えず、測定環境やデータ処理を含めた総合的な精度管理が必要です。
3DスキャンからCAD化まで
製造業における代表的なデータ化工程は、
現物部品
↓
3Dスキャン
↓
点群データ
↓
ノイズ除去・位置合わせ
↓
ポリゴンメッシュ
↓
基準面・軸・穴・円筒・自由曲面を解析
↓
CADサーフェス/ソリッドモデル作成
↓
元スキャンデータとの偏差確認
↓
STEP・IGES・Parasolidなどで納品
という流れになります。
単に現物形状をトレースするのではなく、基準面、中心軸、対称性、穴径、フィレット、抜き勾配、公差などを整理しながらCAD化することで、その後の修正・加工・再設計に使いやすいデータになります。
3Dスキャンの主な活用分野
3Dスキャンは製造業を中心に幅広い用途で使用されています。
金型
摩耗解析、金型修理、図面のない金型のCAD復元、追加金型製作
自動車部品
製品検査、CAD比較、試作品評価、形状解析
機械部品
図面のない部品の再製作、保守部品のCAD化
鋳造品
変形、収縮、形状偏差の確認
設備・プラント
大型設備の現況測定、配管レイアウト取得、デジタルツイン
研究開発
試作品の形状評価、設計改善、CAE解析用モデル作成
まとめ
3Dスキャンには、光学式、レーザー式、三角測量式、ToF式、位相差式、CT式などさまざまな方法があります。
重要なのは、単に「3Dスキャナーで測る」ことではなく、対象物のサイズ・材質・必要精度・測定範囲・最終的な使用目的に合わせて適切な方法を選ぶことです。
さらに、取得した点群データをノイズ除去、位置合わせ、メッシュ化、CAD化し、必要に応じて元データとの偏差を検証することで、製造や設計に利用できる実用的な三次元データになります。
3Dスキャンを適切に活用することで、図面のない部品の復元、金型修正、製品検査、品質改善、保守部品の再製作、リバースエンジニアリングなど、ものづくりの幅広い課題に対応できます。
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